鴻上尚史さん作『ジュリエットのいない夜』感想です。
ネタバレを含む辛口感想です。ご注意ください。
続きからです。
ひとことで感想を言えば「びっくりするほどバッドエンド」
「ロミオとロザライン」と「オセローとジュリエット」の二本の小説が収録されています。
以下あらすじ
海藤は売れない演出家で、自分の主催する劇団の公演を考えながら塾の講師をしている。劇団初期のメンバーと結婚して二人の子供がいるが、育児はほぼ妻に任せきりで、劇団の主演女優(若い)と不倫している。
海藤は劇団のために新しい脚本を用意する。それが「ロミオとロザライン」
ロザラインというのは、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」で最初にロミオが恋をしていた相手。ロミオはロザラインを追っていたはずなのに、ジュリエットに会ったとたん心を移し、さらには彼女と心中にまで至ったのだ。
この「ロミオとジュリエット」の話を、本編では名前しか出てこないロザラインの視点から見てみると、どういう風景が見られるのか、という挑戦だった。
その挑戦は、前途多難だった。妻であり、主演女優でもある美香子はロザラインの役を掴むのに苦労していたし、客演の若手の俳優は脚本の矛盾をついて劇団の空気や流れを止めてしまう。プライベートでも彼は、ジュリエット役の女優を海藤から奪ってしまう。
劇団の空気は悪く、改善策も見当たらない。海藤も、劇団も、終わりは近いように思われた。
そこから突如場面は変わり、今度は「ロミオとジュリエット」の舞台を作る30代の演出家、越智に視点が移る。
越智は「ロミオとジュリエット」の演出に抜擢され、さらにはその主演女優に自分の恋人が選ばれたことを知る。
演出助手としての経験は積んできたが、演出家としてはこんな大掛かりな舞台は初めてで、張り切って稽古初日を迎えるが、本読みでいきなり主演男優が「今日は喉の調子が悪い」と言って代役に自分のセリフを読ませてきた。
その演劇に対する姿勢の違いが、熱意の温度の差にしか越智には感じられない。
さらにその男優は越智の恋人に気があるそぶりを見せ、その恋人は、劇を成功させたい一心で誘いに乗ってしまう。誘いといってもまだ食事程度だが、演出助手からのリークに越智は精神的に追い詰められていく。
心変わりをしたのかもしれない。演出を降ろされるかもしれない。
募る不安と嫉妬。抑えられない衝動で行動する姿はまさに「オセロー」…
その名前の示す通り、物語はバッドエンドを迎える。というストーリー。
「この主人公がどうしてこんなセリフを言うのか」のような解釈や「このシーンを伝える方法はどれがベストか」といった演出を議論するシーンが多くて、実際こうやって演劇を作るんだろうなあ、とそのクリエイティブな空気を感じられました。
ロミオは「ロミオとジュリエット」の冒頭でロザラインを追いかけていたはずなのに、ロザラインがキャピュレットだということに気づいてなかったのか問題は、「一度問題に思ったけど、ロザラインへの思いと一緒に忘れたんじゃない?」とか「姪のロザラインならまだごまかしが効いたとしても(父親がキャピュレット卿とは疎遠とか、勘当されているとかで問題がない可能性)(ロザラインは自分の父親と復縁してくれるよう卿に頼むために、仮面舞踏会に出席したのだ)(そしてキャピュレットと復縁したいがためにロミオを拒絶している)(ただの妄想です)キャピュレットの跡取り娘であるジュリエットはごまかしが効かないんじゃない?」とか、読みながら考えましたけれど、そういう無理やり解釈を作って劇を作ることはせずにきちんとした根拠を役者に提示しようとする海藤さんの姿勢が真摯で、だからこそ劇で成功を収めてほしいな、と思いましたがクライマックスでぶった切られ…「オセローとジュリエット」の方で海藤さんが日の目を見ていることがわかるけれど、そこを!海藤さん視点で読みたかった!
越智さんの方は、その日の反省があると自分の手に爪で強くバツ印を刻んでいく、ということをしていて、実際そういう人いそうだけど、その自分の律し方はこころを痛めそうだ…と思っていたら案の定でした。
また、越智さんをオセローと見立てるなら、イアーゴーにあたる演出助手の人が本当怖かった…
そんな息をするように人を陥れるものなのか、葛藤とかないのか。
まさか誰もがここまで暴走するとは思ってなかったのかもしれないけれど、越智さんはジュリエットのいない夜を自分が死ぬまで続けないといけないんだなー。と思うと本当にびっくりするほどバッドエンド。
せめて海藤さん達がどんな風に成功したのかを見届けたかったよー。
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