2017年1月15日日曜日

『いまさら翼といわれても』感想①

米澤穂信さんの「古典部」シリーズ最新刊感想前半です。

ストーリーにかかわる、ミステリーのトリックにかかわるネタバレが含まれますので、苦手な方はご注意ください。

続きからです。


『氷菓』の頃から古典部シリーズはずっと追いかけていて、特に『遠回りする雛』のあたりからは、折木君はもう、千反田さんのためだけなら、モットーを少し変えてもいいじゃないか、恋なら、そのために愚かになってもいいじゃないか。アンリミテッドルールブックでも、いいじゃないか…と思いながら、ミステリーだけでなく、ジュブナイル恋愛小説としても面白く読んでおります。

『箱の中の欠落』
いろんなことに顔を出す里志が、選挙管理委員にかかわって、その開票の時になぜか票が増えてしまった!なぜなのかわからないけれど、権力者(委員長)をそのままにしておくと、まじめでおとなしい一年生に冤罪がかぶせられかねない!どうしよう奉太郎!?というお話。
奉太郎は安楽椅子探偵のごとく話だけで解決案を導き出し、結局犯人も捕まったのですが、その正体も動機も不明のまま終わります。

読み終わった感想としては、結局生徒会選挙の票を、なんで偽装しようと思ったんだろう!?
里志も奉太郎も、犯人の正体も動機も気にしません。これからは選挙管理委員の仕事だ、と。
なんか、美学、要するに彼らのモットーがそうさせるんだな、と思うんですが、このモットーこそが彼らのキャラクターであり、大きな魅力だと思うんですが、私は動機も正体も気になるなあ。ネウロの第一話みたいだ。

『鏡には映らない』
折木と里志君中学同窓生であり、古典部でも一緒の伊原さんが、中学の時の卒業制作で、折木がものすごい不義理をしていたことを思い出し、その理由を探す話。
折木は、卒業制作で、学年全員で作る鏡の縁の部分の彫刻を、決められていたデザイン通りに仕上げずに提出し、大バッシングを受けていた、という過去がありました。
伊原さんは、高校で一緒に時間を過ごすうちに、折木君がそんな不義理をする人間には思えなくなったとのこと。
伊原さんといえば、私のイメージはかき揚げ丼。『クドリャフカの順番』の料理対決、おいしそうでしたね…。うっとり。卵ない状態でかき揚げができるんだろうか、と思いはしましたが。ちょっとばらばら気味のかき揚げだったかもしれない。
そんな伊原さんですが、中学の同窓生の証言や、実際に出来上がった鏡を観察して、一つの結論にたどり着きます。
それは、最初に設定されたデザインでは、ある一人への嫌がらせのためだけのメッセージが盛り込まれていたということ。折木はそれに気づいたので、あえて違う文字を入れ込んでメッセージを書き換えた、というもの。

この嫌がらせが、本当にひどい。たった一人への嫌がらせのためだけに、学年全員を巻き込んでいる。
しかし、だれか気づくだろ!とも思いました。文字を隠すだまし絵というのは多くありますが、中学全校生徒のうち、折木くんだけがそれに気づくことがあるだろうか。一班ごとに渡されたのは一部のデザインだけだったから、気づかなかった、ということになっていましたが、全体のデザインを見たはずの美術の先生とか、本当は気づいていた人がいたのかもしれませんね。でも、止めようとしたのは、折木君たちだけだったのかもしれません。
止める手段と意趣返しが、また折木と里志らしいな、と思いました。
伊原さんの言う通り、面倒くさい男たち、です。

『連峰は晴れているか』
放課後古典部部室にいたら、ヘリが飛んでくる音がした。その音を聞いた奉太郎は、小木という中学の英語教師がヘリが好きだったなあ、と思い出します。しかし、そんなエピソードを中学同窓生である里志と伊原さんは知りませんでした。
そもそも奉太郎が小木先生がヘリが好きだと思ったのは、授業中にヘリの音に過敏な反応を示し、「ヘリが好きなんだ」と言っていたことを覚えていたからなのですが、ここで奉太郎はある予感を感じます。そして、「気になるんだ」と、千反田さんの専売特許のセリフを言って、過去の記録を調べたら、そこにはちょっと物悲しいエピソードが隠されていました。というお話。

奉太郎がこの、ちょっとした予感のために行動する、というのが少し意外でしたが、次の『長い休日』を読むと、すこし納得します。たぶん、『氷菓』とか『クドリャフカの順番』のころの奉太郎なら、事実は確認しないまま「小木先生はヘリが好き」ということ自体を忘却したんじゃないだろうか…

あと、読んでみて、あれ、私この話、随分前だけど絶対読んだことあるな、と思いました。
そして奥付を見てみると、初出は「小説 野生時代」2008年7月号。
そんなワイルドな名前の雑誌を読んだ覚えはない…気がするけどなあ。アニメで観たのかもしれません。
けれども、初出から出版まで、随分時間のかかることもあるんだなあ…
「小市民」シリーズもひょっとしたら、どこかで少しずつ、進んでいるんだと、いいな。

長くなってきましたので、今回はここまで。

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