ヴィルヘルム・ハウフ著、乾侑美子訳『冷たい心臓—ハウフ童話集』感想です。
ネタバレに配慮していませんのでご注意ください。
続きからです。
この本は短編の童話がいくつも収められていますが、それぞれが出版された時のまとまりごとに、まとまり自体にも物語が追加されているスタイルの童話集です。まとまりは以下の三つ。
「隊商」
砂漠を進む隊商の一団が、退屈凌ぎに夜がくるごとに一人一話ずつ物語を披露していくお話。物語は旅の中で聞いた話だったり、実際に自分が体験した話だったりする場合もある。「コウノトリになったカリフの話」「幽霊船の話」「切られた手の話」「ファトメの救出」「小さなムクの話」「にせ王子の話」の六編が語られる中で、物語にも登場し、自分たちも遭遇した大盗賊オルバサンとは何者なのか…?というお話。
「アレッサンドリアの長老とその奴隷たち」
アレッサンドリアに住むお金持ちが、子どもの頃に攫われてしまった息子が帰るよう願いを込めて、奴隷たちを解放するときに一人一話ずつ物語をさせていくお話。ちょっとした縁で同席を許された若者たちが目撃する、最後に話す奴隷の正体とは…?というお話。
「シュサッペルトの森の宿屋」
偶然森の宿屋で一緒になった一行が、この宿は盗賊宿ではないかと疑って、眠らないために物語をしようぜ!ということで一人一話ずつ話していくが、結局盗賊に踏み込まれる。貴族の婦人の身代わりとなって囚われた職人の少年の運命は…?というお話。
「シュサッペルトの森の宿屋」が「謙虚、堅実をモットーに生きております!」で出てきて、どんなお話なんだろうなー、と気になって読み始めた本でしたが、圧倒的ハッピーエンドのパワーで癒されます!いわゆる童話のように「王子様が迎えに来てそのあとは幸せに暮らしました」のような成り上がりハッピーエンドではなく、あくまでも自分の両手が届く範囲で幸せになろう、という思いが伝わってくるハッピーエンド。
ハウフ自身は24歳で亡くなっているということで、これを書いた時に二十歳そこそこというのが信じられない…その若さでどれだけの薫陶を受ければこれだけの物語が生み出せるんだろう。
さらに年月を重ねて、人生の薫陶をさらに深めた彼が書いた物語も読んでみたかったなあー、と感じた作品。
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