2017年8月9日水曜日

『三国志』感想

羅漢中作、小川環樹、武部利男編訳『三国志』の感想です。

ネタバレ多数あります。ご注意ください。

続きからです。





『三国志』といっても、陳寿による正史の方ではなくて羅貫中による『三国演義』の、さらに大筋を抜き取ったいわば「エッセンス版」といったところ。
『三国志(演義)』は興味があっても原文は難しすぎて敬遠していたんですが、この少年文庫ならすらすら読めて面白かったです。どんどん物語が展開していくので、なんだかプロットを読んでいるみたいでした。

『三国志』といえば中国の三国時代の歴史を記したもので、『三国演義』といえば、それを題材にした小説です。著者は羅貫中とされていますが、本当にこういう名前の人物が書いたかどうかは定かではないらしい。何人かが集まって書いたものではないか、羅貫中というのは共同ペンネーム、サークル名のようなものではないか、とも言われているみたいです。

特に宋代くらいまでに語り物として受け継がれていた『三国志』を文章として編纂したものが『三国志演義』だ、と言われているようで、インターネットはもちろんないし、本だってなかなか貴重であっただろうしそもそも識字率が高くはないだろうという時代に、そこに暮らしている人々がどうやって物語を得ていたかと考えると感慨深い…講談師みたいな、昔の紙芝居屋さんみたいな人が広い場所で語り聞かせていたりしたのかなー。
聞いてくれる人の反応を見て話し方や内容を改変しているうちに、劉備は人格者に、孔明は万里を見通す賢者のように描かれるようになったんだろうな。

『三国志』が三国時代(大体西暦で180年~280年)で、羅漢中により『三国演義』が成立されたというのが明初(1370年くらい?)とされているので、1000年前の出来事ということ。1000年前の出来事が小説になるくらいずっと愛され続けてきた、というのもすごい話だ…

「梅園の誓い」や「三顧の礼」など、短めのエピソードを積み重ねて物語は形成されています。中でもやっぱり面白いな!と思ったのは「赤壁」。
魏と戦う呉のお話なんだけれど、スパイ合戦で敵に偽の情報を掴ませたり、軍師の忠言利用して相手をうまく動かしたり、合戦が始まる以前の準備ですでに呉が勝っていたな、という感じでした。兵力で何倍の差もあるのに、策略だけで優位な状況を作り上げた周瑜。すぐ部下の首を切り落とすけど、すごい人だったんだなー。
そしてそんな周瑜を簡単にもてあそぶ孔明…人間離れした策士でした。

しかしそんな神がかった孔明も、劉備が死んだあとは衰え、最後は平原統一も達成できなかった。万里を見通す策士だった孔明も、寿命には勝てない、時間の流れだけはどうしようもなかった、ということなんだろうか。
さらに劉禅は宦官を寵愛するし(というか、宦官の寵愛ってどういうことなんだろう。友達的なものなのか、男色的なものなのか。なんで宦官なんだろうなあ。後宮に入れるから?だったら女官や夫人でもよさそうなものだけど…女性は政治に口出しできないのかなー。則天武后とかいるけども多分に特殊な例なんだろう)蜀は結局滅亡してしまう。

最後のあたりはいまいち見どころが少ない気がしてしまうのは、活躍した数々の英雄たちがどんどん死んでしまって、物語を終わらせていくからなのかなー。

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