ジュール・べルヌ著、清水正和訳 『神秘の島』あらすじと感想です。
ネタバレを多数含みます。ご注意ください。
続きからです。
あらすじ:南北戦争の時代。北軍に所属する技師サイラス・スミスと記者ジュデオン・スピレットは南軍に捕まってしまう。
捕虜として過ごす町で、北部出身の水夫ペンクロフから気球を使った脱出計画を提案されたサイラスは、記者と召使いのナブ、愛犬のトップ、ペンクロフが面倒を見ている孤児ハーバード・ブラウンと共にその計画を実行するが、悪天候により思いがけない場所へと気球は流される。たどり着いたのは無人島で、さらにサイラスは波にさらわれ犬と共に行方不明になる。残された4人はサイラスを心配しつつ無人島生活を始めるが、技師であるサイラスがいればもっと充実した生活が送れるのに、という思いをぬぐい切れない。
ある日、ナブとトップによってサイラスが発見される。技師は洞穴の中で凍えていた。四人の看護によりなんとか一命をとりとめた技師は瞬く間に回復し、数々の道具や鉄、新しい家や武器(ニトログリセリンまで!)などを産み出していく。
リンカーン島と名付けたこの島で、海に浮かんでいた手紙を読んで一行が助けたエアトンが仲間に加わって五人になったが、あまりにもものごとがうまく行き過ぎる。特に危機的な状況にはどこからか救いが訪れることに疑問を持ちつつも一行は4年をこの島で過ごした。
そして、その疑問は突然の電報によって明らかになる。このリンカーン島には、4人が難波するよりも先に一人の男が住んでいた。その人物こそ『海底二万マイル』のネモ船長だった。
ネモ船長は『海底二万マイル』のとき(物語上では16年前)より年をとって、船員たちも皆息を引き取って、たった一人でノーチラス号と共にこのリンカーン島で残りの人生を過ごしていた。そして難波した4人を観察するうちに、善人だと確信して、援助していたのだった。
ネモ船長は老衰で息を引き取ってしまうが、五人にノーチラス号を自分の棺として海底に沈めてほしい、という遺言とダイヤモンドと真珠の詰まった宝石箱を託す。
遺言を実行した5人だったが、リンカーン島は火山が噴火して火砕流が押し寄せてきて、4年かけて作り上げたすべてを飲み込んでしまう。
しかし、エアトンを置き去りにした船長の息子が彼を迎えに来たことで、5人はリンカーン島からの脱出に成功する。
無事にアメリカへ戻った一行はネモ船長の残した宝石でアイオワ州の広大な土地を購入し、そこを新たに開拓して仲間たちと共に暮らしていくのだった。という物語。
1877年の小説。日本で言えば明治10年!銀座にガス灯が灯ったくらいの時代の小説です。 シャーロック・ホームズよりも前の時代のお話。しかし、100年以上前の小説とは思えないくらい面白くて、小説の歴史って深いんだなあ、と思いました。今でも通用しそう、というか、通用しているから今でも本が手に入るのか。こんなにも長く読み続けられているって、すごいなあ。
難船者一行のリーダー、サイラス・スミスは技師で、あらゆる実践的な知識を持っていて、それによって島での暮らしはどんどん充実していきます。衣食住に武器弾薬。風車や船の設計までなんでもござれ。技師ってこんなにいろんなことを知っていて、労働力さえあれば、もの作りにもこんなに精通しているものなんだろうか。技師だ!としか説明されないけれど、北軍で一体どんな教育を受けて、何の仕事をしていたんだろう…と思いつつ、無人島で知識を生かして気持ちよく充実した暮らしを送るその姿は、まさしく異世界転生における現代知識チート。私も好きでよく読むんですが、昔の人もやっぱり好きだったのかなー。人間が娯楽小説に求めている「面白さ」って、140年経ってもあまり変わっていないのかもしれない。
それとは反対に随分変わったんだなあ、と思ったのは自然に対する価値観。作中では当時の主要エネルギーだった石炭の枯渇問題など、環境問題にも言及されています。おそらく当時としては革新的な視点で、きっとジュール・ベルヌは自然と共に生きることの尊さ、人間中心の文明の驕りへの警鐘を伝えたかったのだろうな、とは思いますが、ニトログリセリンを使っての地形変化、乱獲すれすれの狩り、(おそらく)生活で出た老廃物、不要物垂れ流しの生活…彼らが暮らした四年間で、島の生態系は随分変わっただろうな。
予期せず無人島での生活を始めて、生きるか死ぬかの状況なんだから環境破壊も致し方なし、というよりは、公害や環境問題が世界的な課題になるより前だった140年前との価値観の違いを感じました。
『海底二万マイル』を読んでから『神秘の島』を読んだので、ネモ船長が出てきたことが胸熱でした。でもできれば『海底二万マイル』のアロナクス教授にネロ船長を解き明かしてもらって、船長の孤独を癒してほしかったなあ。
サイラスでもなり得そうだったけれど、彼は無人島生活で多分それどころではない…
きっと中学生くらいの時に読んでいたら、ハマっていたら、数学とか科学の現実での応用範囲の広さについて気づけていたんじゃないかな。数学をやりながら「こんなの絶対将来使わないよ」って思っていたあのころの私に読ませてあげたい、と思う本。
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