モーリス・ルブラン著、竹西英夫訳 『怪盗紳士ルパン』感想です。
ネタバレを含みます。ご注意ください。
続きからです。
ルパンって、考えてみれば読んだことがなかった。
どうしても3世のイメージが強くて、ルパンといえば女性にだらしなくて、発明が得意で、でたらめな機械を操ってど派手なアクションを行い、最後にはヒロインとちょっといい感じになるけど彼女には幸せになってほしいから身を引く…みたいな先入観があります。(なんかいろいろ混ざっているかもしれない)
でも、この初代(?)ルパンはそんなイメージとは随分違いました。アクションではなく推理小説に近いのかな。こういう話だったんだ…!と、すごく意外でした。
モーリス・ルブランは最初、知識階級に向けた純文学ばかり書いていて、でもそれが専門家以外に全然受けがよくなくて、そんな折に友人に請われて雑誌に連載したのが「ルパン」だったとのことで、この巻では短編小説が何本か収録されています。
「ルパン逮捕される」
最初はルパンが乗った船の話。ヨーロッパからアメリカにわたる船の中でルパンが逮捕されるまでに起こったことの顛末。
最後に自分が持っていると怪しまれるから、とルパンは船の中で仲良くなった女性(ネリー嬢)にカメラ(中には船で盗んだ宝石などが入っている)を託し、船を下りるところで捕まるんですが、その後で女性はそのカメラを警察に渡すことなく海に投げ捨ててそのまま去っていきます。ルパンと仲良くなったこの数日をまったくなかったことにして自分の日常に戻るのかー。自分の人生にアルセーヌ=ルパンは必要ない、って宣言しているようなものだよね。たくましい女性だ…と思った一本。
「獄中のアルセーヌ=ルパン」
ガニマール警部に捕まり、ラ・サンテ刑務所に収容されたルパンが牢の中から盗みをやり遂げるお話。
もしかしてルパンを追いかける警部がガニマールだから、銭形警部はがに股なんだろうか…いや、関係ないか。
「ルパンの脱獄」
ルパンが外部と連絡を取っているのは確かなのに、その証拠がない。警察関係者はルパンをあえて脱走させて一味のしっぽを捕まえようとするが…というお話。
よく似ている別人を装って堂々と脱走するお話なんですが、ルパンの変装って、殆ど見た目は変わらないのかな。メイクとかはあるだろうけど、殆どは演技力だけで違う人間を装っているのかな。こう…顔をはがす変装のイメージが強すぎたけど、ルパンの一番の武器はこの演技力なのかなー、と思った一本。
「不思議な旅行者」
ルパンは列車で移動するが、その道中で強盗にあってしまう。逃げた強盗を捕まえて盗まれたものを取り戻せ!というお話。ルパンは完全無欠の大泥棒というわけではなくて、いきなり襲ってきた強盗には簡単に盗まれてしまったり、けっこういろんな失敗談もあるんだな、というところが親しみが湧いて共感しやすかったです。
「女王の首飾り」
昔、貴族が所有していた女王の首飾り。見事なダイヤの嵌められたそれを伯爵の夫婦はとても大切にしていたが、ある日その首飾りを紛失する。調査の結果怪しいとされたのは夫人の友人(といっても小間使い扱いをされていた)アンリエットという女性。彼女は未亡人で、息子と一緒に伯爵家に住んでいたが、この一件のために追い出されてしまう。そして年月は流れ、伯爵のサロンでこの話題が持ち出される。その中で、フロリアーニ勲爵士(ナイトのことのようだ)が事件を解決してみせるのだが…というお話。
このお話では明言はされないんですが、多分アンリエットと一緒にいた少年こそが後のアルセーヌ=ルパンではないか、と匂わされます。だとしたら、最初はお母さんを助けるために泥棒を始めてしまったのかー。そしてあんまりにもうまくいくから、その後大泥棒の道を歩んでいったのかー。
「ハートのA」
ルパンの友人がルパンと友人になる前に、一人暮らししている自分の家で起きたことの顛末を語る作品。読み始めたときはこの友人がルパンの活躍を報じる新聞「エコー・ド・フランス」の記者なのかな、と思ったけど違った…
「アンベール夫人の金庫」
ルパンの失敗談。盗もうと思って近づいた夫婦に逆に騙されてお金を巻き上げられるお話。でもなんでアンベール夫妻はあのタイミングで逃げ出したんだろう。
「黒真珠」
老婦人が持つ黒真珠を狙ったルパンだが、いざ夫人の屋敷に忍び込むと夫人は殺され、黒真珠もなかった。このままでは殺人の罪も被せられてしまうかもしれない、と思ってその場で沈思黙考するルパンだが…というお話。犯人を追い詰めるために二重に罠を張って、その後で回収する手腕が見事です。やってることは人の弱みに付け込んで唯一の財産を強奪していることなんだけれども。
「おそかりしシャーロック=ホームズ」
ルパンに狙われていると悟った銀行家ジョルジュ=ドゥバンヌはイギリスからシャーロックホームズを呼び寄せる。ホームズが到着する前夜に、ルパンは盗みに入るが…というお話。
同じ時代に出版された小説からキャラクターを借りて自分の小説に登場させるって、ちょっと今では考えられないよなあ…とか思ったけど、今でも普通にシャーロックホームズが登場する作品とか、ルパンを題材にした作品もある。著作権の50年有効を考えても金田一少年の例もある…そう考えると、人気のある作品からキャラクターを借りるってけっこうふつう…?それだけシャーロックホームズがパリでも大人気だった、ということなのかな…?でもやっぱり本人登場、そして対決って、「いいのか…?」と心配になるけど当時の人はどう感じたんだろうなー。ドイル自身は怒っていたみたいだけど、そのためシャーロックの名前をもじって出版していたみたいだけど、名前を変えればそれでいいんだろうか…うーん。
あと、「ルパン逮捕される」で登場したネリー嬢が再登場して、あの時の行動をルパンは「彼を裏切ることよりは、むしろ彼が宝石と紙幣を隠し入れたコダック・カメラを海中に投げ捨てることを選んだ見事な女性」とかなり好意的に解釈していて「え、あれってそういうことだったの?」と思いました。
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