2017年2月13日月曜日

『龍のかわいい七つの子』感想②

『ダンジョン飯』でダントツに有名になった久井諒子さんの短編集の感想②です。

ストーリーのネタバレを含みます。苦手な方はご注意ください。

続きからです。




「狼は嘘をつかない」
最初はエッセイ漫画で始まります。こちらはWWS(狼男症候群)の子供を持つお母さんのエッセイ漫画で、交流会で不安になって、でも支援センターの助けを得て、息子と育っていくお話。
そこから、いきなり息子が大学生になって、息子視点にシフトします。ここからは普通の(?)マンガスタイル。最初に読んだときは違う漫画なのかと思ったよ。
大学生まで育った息子は、WWSの症状に悩みつつ、青春を送っていました。症状の一つとしてときどき(冷静になった自分が信じられないほどの)ハイテンションになり、いろんな人と友達になりますが、冷静に戻った時は、その時のことを本人は覚えていません。けれどもある日、そうやって知り合った女の子から、思っていることはちゃんとお母さんに伝えたほうがいいと助言を受けて、エッセイ漫画で話題になって、全国各地講演会で忙しいお母さんに日頃の不満をぶつけるのですが…というお話。

子供のころから変わったもの、変わらなかったもの、たくさん詰まっている一話です。お母さんって、強い人は本当に強いよなあ。
私は母になったことはないですが、子供は親を見ていて、不満もいっぱいあるけれど、でも、感謝だっていっぱいしているんです。でもなかなか、それを伝えるのって難しいような。無理に伝えようとしたら、花嫁の手紙かよ、ってなりそうだ。
それにしても外から見る分には狼男症候群の充電期?ハイテンションなところはちょっと見てみたい。見てる分には楽しそう。

「金なし白禄」(ロクの字の部首は本当は示なんだけれど、変換で出ないのでこちらで…)
描いた絵が生きものとなって紙を飛び出してしまうので、どんな動物も片目だけは描き入れてこなかった絵描きの白禄さんですが、金をだまし取られ、画材もほとんどを売り払ってしまいました。そこで困った白禄さんは、家にあった自分の絵の贋作に目を描き入れて協力させて、今まで描いてきた動物たちに目を描き入れて実体化させ、高く売ることにしよう!というお話。
白禄先生は弟子に裏切られ、女房に逃げられ、息子は都で医者をしていて、天涯孤独の身の上と語り、なかなかの人間不信のがんこなおじいさんです。
でも描く絵は一流で、最初に目を描き入れた男も、目ん玉だけは白禄先生が描いたので、よく見ると超美男子(らしい)白禄先生はかつて描いた絵を実体化させていきますが、何分生きがよくて暴れまわり、うまく捕まえることができません。そして、炭も尽きてきたとき、最後に龍を実体化させようとするのですが…というお話。

贋作は紙なので、雨に触れて溶けてしまうシーンは、高尾滋さんの「あじさいの庭」を思い出しました。あれもすごくいい話だったなあ。

そして最後の先生のセリフ「絵を描いていてよかった」というのに、考えさせられました。その言葉は、絵が息子との絆をつないでくれたからでしょうか。人の温かさに、触れさせてくれたからでしょうか。
なんだか、それだけではなくて、絵が、たとえどんな絵でも、描いた人間の心根を反映できるものだから、なのかな…と感じました。先生の描いた絵は立派だけど、プライドが高くて飛び出して行って、でも本当に困ってるときは救いの手を差し出してくれる、ツンデレな絵です。かえって、息子の絵は、未熟だけれど思いやりにあふれた、優しい絵です。絵を通して表現する者にとって、絵が、どれほど心を表現するか実感できる機会を得たことが、「絵を描いていてよかった」なのかな…と思いました。

「子がかわいいと竜は鳴く」
大病で倒れた父王のために、シュン王子は病を癒すという竜の鱗を求めて旅に出て、竜の住む山を案内せよ、とふもとの村で協力者を求めるところから物語はスタート。死んでしまった息子の優しい夢を見ていたヨウは、その協力者として名乗り出ます。ヨウはその村の者ではなく、家族を亡くして遠縁の親類を頼る道中であったとのことで、しかし村で山仕事を手伝っていたため道案内に不都合はないと言います。
そうして始まった王子一行と謎の女性ヨウとの旅ですが、王子の傷にヨウが薬を塗り込むと傷が悪化したり、休んだ次の日にはお供が熱病で倒れたり、とにかく不穏です。当然お供の兵士たちはヨウを疑いますが、王子にその気はないようで…というお話。

ヨウさんの正体自体は以外でも何でもないんですが、いったいいつごろからそんなことに…と気になるところではありました。最初の夢の頃から、ヨウさん自身そんなお仕事をしていたのかなあ。
「竜の小塔」でも竜の子育てについてのお話がありましたが、竜の生殖的な生態は基本的には鳥に近い…のかな?卵生なんだ…と思いました。久井さんの世界観の中にはいろんな竜がいるみたいだから、竜によるのかもしれない。
物語のオチとしては、ヨウさんの復讐も王子の本懐も遂げられないままなんだけれど、なんとなく良い方向に進んでいくようで希望のあるエンディングでした。

「犬谷家の人々」
超能力一家に生まれた双子の姉妹ありさとゆりか。超能力開花には思春期くらいまで待つ必要があるようで、双子の能力が開花してそのお祝いを一家でしよう!というのが犬谷家の今日の予定。そこに、テレパスである父から予定外の来客があると連絡が入ります(テレパシーで)。普段は、外では一般人として暮らしている犬谷家の人々ですが、家では超気が抜けていて、超能力使い放題なのですが、来客があったことで一般人のふりをしようとするのですが…というお話。
実は来客とは有名な大学生探偵で、空中浮遊できるおじいちゃんも、パイロキネシスである伯母さんも、この人の前で能力発動しちゃったら、死んだふりをしないといけなくなって…という展開が、すごい面白いです。能力を隠したい犬谷家の気持ちも、事件を解決したい大学生探偵の気持ちも、どっちもわかって、それが激しくずれているのが、すごい面白いです。
超能力もいろいろだし、使い方もいろいろです。最後の姉妹のセリフは、なんだか、持って生まれた才だけじゃなくて、自分で自分を作っていくんだな、という感じがして、好きでした。

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