『ダンジョン飯』でダントツに有名になった久井諒子さんの短編集の感想①です。
ストーリーのネタバレを含みます。苦手な方はご注意ください。
続きからです。
「竜の小塔」
海と山とに分かれて争っている二つの国が、ちょうど開戦するという時に国境に竜が巣を作ってしまい、そこを通ることができなくなってしまったので(近づくと卵を守る竜が容赦なく攻撃してくるので)戦争ができなくなってしまったぞ!というお話。
山の国では塩が取れず、海の国では作物が取れず、開戦が伸びるにつれジリ貧になっていきます。そんな中、一人の商人だけが、国境を渡ることができました。馬車も使わず、単独で来ることが、竜を刺激しないただ一つの方法だったのです。
その商人を通じて品々を交換する中で、お互いの国のことを知ったり、子竜の成長を見守ったり、両方の国の人々がしていきます。竜の巣立ちの時が、開戦の時だと、知りながら。
そしていよいよ巣立ちの時、竜が飛び立つさまを、両軍の兵士が見守って、応援して、やっと竜がへたくそに飛び立って、みんな喜んで、なんだあいつらも、人間なんじゃないか、戦争なんていらないじゃないかって気づく話。
感想としては、竜の巣から離れた場所の、国境の壁を壊して道を作ればよかったのでは…とか、荷車一つで巣の下くぐって行き来できるなら、他の商人はマネしないのかな、けっこうなビジネスチャンスの予感がするけどな、とかありましたが、心温まるファンタジーでした。ハッピーエンド大好き!
久井さんの描く西洋ファンタジー世界観は基本はトールキンなのかな、と勝手に思っていますが、圧倒的な力を持つ存在である竜のいる世界って、いいよね…
ロマンですなあ。
「人魚禁漁区」
田舎だけど、現代日本のように見える(たぶん)田舎町が舞台。その町は海に面していて、海からはよく人魚が出てきます。共通の言語はないけれど、ヒトに似ているその生きものに、人権を与えろ!という運動が起こっている、そんな町です。そんな町で暮らす準くんは、ある日行き倒れの人魚を見つけます。友達の浜くんにまず相談しますが、なんだか態度が冷たくて…というお話。
久井さんの話は、現実と虚構のバランスがいい、というか、物語なんだけど、現実世界の中にファンタジー要素がある描き方がすごく、「ちょうどいい」具合なんですよね。人魚のいる町が本当にありそう。いや、ないけど。でも、もし、こんな町があったら、こういう問題が起こったり、こういう齟齬があって傷ついたり、傷つけられてりしそうだ。
でも、魚って人間の感覚で少し触れるだけで火傷したり怪我したりする中で、猫車に水と保冷剤を入れれば乗れる人魚はけっこう丈夫だな…と思いました。人魚にとっては、陸の世界は暑くて水がなくて干からびるだけで、他の問題(うろこに傷がついて痛い、とか、呼吸ができない、とか)はないのかな。そう思うと、バケツだけじゃぜったい潜れない人間は、人魚には信じられないくらい、もろい動物なんだろうな。
「わたしのかみさま」
中学受験を控えた(成績は芳しくない)雪枝は、再開発している最中の山の中で、しゃべる魚に出会います。魚は自分を野山の神だと言いますが、もはや帰る場所のない神のために、雪枝は家で神を飼うことにしましたが、野山を失った神はどんどん衰弱していき…というお話。
魚はカルキってしみるのか…というちょっとどうでもいい感想も抱きつつ、この少ないページの中に、どれだけの葛藤が詰まっているか感動します。野山と神と運命と、雪枝の受験の不安が重なって、「もし全部だめだったとしても、私はちゃんと私になれる?」とお父さんに吐露するシーンがとてもいい。受験が辛いんだな、とか決めつけないで、ちゃんと雪枝から、この言葉を引き出せるお父さんもステキです。
どちらがいいかは、人によって違うかもだけど、何かにはなれるんだよー。と勇気をくれるお話でした。神も仏もないけどね。(そんなことないさ)
さて、長くなってしまったので今回はこのへんでお開きです。続きはまた次回に。
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